保育士は、責任の重さに対して給料が低いと不満を感じている方が多く、給料や待遇の悪さから離職してしまう方もいます。
そこで近年、国が保育士の待遇を良くするための処遇改善手当を全国的に導入しました。
しかし「本当に給料が上がるの?」「どうやって手当を受ければいいの?」
と処遇改善手当についてイマイチ分からないという方も多いのではないでしょうか。
こちらの記事では、保育士の処遇改善手当についての情報やもらえる人ともらえない人の違いなどについてご紹介します。
保育士の処遇改善手当とは?
- 政府が始めた施策のこと
- 給料手当や役職の追加が主な内容
- 保育士の人材確保が目的
- 施行されているのは2種類
「処遇改善手当」は、保育士の給料を増やす・安定させることを目的とした施策です。
厚生労働省のデータを参考にすると「給料の安さ」は保育士の退職理由の多くを占めており、保育士不足の原因とされています。
また、共働き世帯の増加による保育施設ニーズの需要拡大が重なり、預かり先の無い「待機児童」が増加しているため、保育士は多くの現場で必要とされています。
これらの問題を解決するために、政府が保育士の人材を確保するために始めた施策が「処遇改善手当」です。
現在実施されている「処遇改善手当」は、賃金改善・役職の追加の2種類で、処遇改善手当Ⅰと処遇改善手当Ⅱに分かれています。
保育士の処遇改善手当をもらえる人ともらえない人の違い
処遇改善手当をもらえる人ともらえない人の違いは「勤め先の保育園が国に認可されているかそうでないか」でほとんど決まります。
処遇改善手当は国からの支援金なので認可外保育園に勤めている保育士は基本的に手当の対象外とされています。
しかし、認可外保育園での実務経験は、処遇改善手当の要件である実務経験として認められるため、職場が認可保育園になると同時に手当を受けられるかもしれません。
また処遇改善手当は、保育園の経営者がまとめて受け取り、設備費など金額を差し引いた後に保育士へ配当するので、職員に充分に配当されない保育園もあることも事実です。
下記の処遇改善手当の内容を見ながら、自分は対象なのに…と感じた方は勤め先に相談するもしくは転園を考えたほうが良いかもしれません。
処遇改善手当Ⅰについて解説
- 処遇改善手当Ⅰをもらえる人
- どうやって給料があがるの?加算の仕組み
処遇改善手当Ⅰは保育士の賃上げ制度で、2015年に始まった制度です。
各保育施設の平均勤続年数に合わせて支払われる手当であり、保育士の定着を図ることを目的としています。
処遇改善手当Ⅰは、施設の平均勤続年数で決まる基礎分に加え、職員の賃金改善報告で加算される賃金改善要件分、スキルアップのための具体的な計画などで加算されるキャリアパス要件分の3つに分けられます。
こちらでは「どんな人がもらえるか」「どのように給料が上がるのか(加算の仕組み)」について解説しているので、ぜひ参考にしてみてください。
処遇改善手当Ⅰをもらえる人
認可保育園で勤務する正社員と、1日6時間以上かつ月20日以上勤務する非正規職員が処遇改善手当Ⅰを受けられます。
基礎分は、職員の昇給を目的に支払うように義務付けられており、基本給に加算して支払われます。
賃金改善要件分は、基本給ではなく賞与などの形で職員に還元することもできるため、職場によって様々です。
どうやって給料があがるの?加算の仕組み
処遇改善手当Ⅰは、園内の職員の平均勤続年数に応じて上がっていく仕組みで、基礎分と賃金改善要件分という加算率を加えて算出できます。
基礎分や賃金改善要件分の概要については、後述で解説しているので給料が具体的にどのくらい上がるのかイメージを付けておきましょう。
例:平均勤続年数10年の場合
12%(基礎分)+ 5%(賃金改善要件分)で、合計17%の加算を受けられます。
基礎分
処遇改善手当Ⅰの基礎分は、職員1名あたりの平均勤務年数に応じて人件費の加算率が決まる仕組みになっています。
保育園内の対象になる全職員の平均勤続年数を、対象の職員で割った数字を施設の平均勤続年数とし、平均勤続年数が多いほど賃金に加算される手当は大きくなります。
例えば、平均勤続年数が1年未満の場合は2%、1年で3%、2年で4%加算され、1年平均勤続年数が増えるごとに1%ずつ基礎分が加算されていきます。
平均勤続年数が10年以上になると一律12%になる仕組みです。
賃金改善要件分
処遇改善手当Ⅰの賃金改善要件分は、保育施設で保育士の給料の改善が適切に行われているか、賃金改善の計画と実績報告を踏まえて加算されます。
賃金改善の実績報告書を国に提出し、基準年度から賃金改善を行っている保育施設が加算対象となります。
例えば平均勤続年数が11年未満の場合は6%、11年以上の場合は7%が加算されます。
キャリアパス要件分
処遇改善手当Ⅰのキャリアパス要件分は、職員である保育士のキャリアアップに力を入れている保育施設が対象となる処遇改善手当です。
役職・仕事内容に応じた勤務条件や、キャリアアップのための研修の実施及び職員の周知が主な条件となります。
また、条件を満たさない場合賃金改善要件分から2%減額となります。
処遇改善手当Ⅱについて解説
- 処遇改善手当Ⅱをもらえる人
- どうやって給料があがるの?加算の仕組み
処遇改善手当Ⅱは、管理職クラスでない一定の実務経験を持つ保育士を対象とした制度で、2017年に施行されました。
保育士は、これまで「園長」「主任保育士」「保育士」の3つの管理職しかありませんでした。
保育士が管理職になるには数十年の勤務が必要なので、キャリアアップによる昇給が難しく、給料が上がりにくくモチベーションを保ちづらいという問題がありました。
そこで処遇改善手当IIは、3つの新しい役職「職務分野別リーダー」「専門リーダー」「副主任保育士」を設け、若手・中堅保育士のキャリアアップによる給料加算を実現しました。
処遇改善手当Ⅱをもらえる人
処遇改善手当Ⅱは、国から認定を受けている保育園などで勤務する「園長」「主任保育士」を除く正規職員と、1日6時間以上かつ月20日以上就労する非正規社員を対象としています。
手当を受け取るためには約3〜7年以上の実務経験と、キャリアアップ研修を規定数修了することが条件です。
追加されたいずれかの役職に就けば処遇改善手当Ⅱを受けられます。
認可外保育園は手当を受けられませんが、処遇改善手当Ⅱを受けるために必要な実務経験は認められます。
新役職に就くためのキャリアアップ研修は以下6通りの専門分野別研修・マネジメント研修・保育実践研修があります。
- 乳児保育
- 幼児教育
- 障害児保育
- 食育、アレルギー
- 保健衛生、安全対策
- 保護者支援、子育て支援
どうやって給料があがるの?加算の仕組み
処遇改善手当Ⅱで追加された役職にキャリアアップすると月額の給与が加算されます。
職務分野別リーダーになれば月5,000円が加算され、専門リーダーと副主任保育士は最大月40,000円加算される施設が多いです。
ただし、加算分の配当は保育施設が管轄しているので、変動する可能性があります。
例えば、保育園が月額40,000円加算する副主任1名以上確保した場合、1名当たりの配当を月額5,000円以上40,000円以内に収めれば余った処遇改善手当を他の職員に配当できます。
処遇改善手当Ⅱで追加された新役職について解説
処遇改善手当Ⅱを受け取るには、新しい役職へキャリアアップする必要があります。
キャリアアップにはそれぞれ条件があるので、新しく追加された3つの役職を細かく解説していきます。
職務分野別リーダー
- 3年以上の職務経験
- 担当するキャリアアップ研修の修了
- 保育園から職位発令を受ける
職務分野別リーダーは、保育士の職務経験が3年以上ある事が前提条件です。
キャリアアップ研修の6分野のうち、担当する職務分野の研修を修了し、保育園から職位発令を受けることで役職に就くことができます。
必要な職務経験年数が少ないため、新人保育士でも給料アップを目指せます。
専門リーダー
- 7年以上の職務経験
- 4分野以上のキャリアアップ研修修了
- 保育園から職位発令を受けている
専門リーダーは保育士の職務経験が7年以上あり、職務分野別リーダーを経験している事がキャリアアップの前提の条件です。
キャリアアップ研修の6分野のうち、4分野以上を修了し、保育園から職位発令を受けることで役職に就くことができます。
職務分野別リーダーの次のステップとして目指す方が多い職位であり、園長と主任保育士を除く保育施設の職員1/3の人数までと定められています。
副主任保育士
- 7年以上の職務分野別リーダー経験
- 3分野以上のキャリアアップ研修修了
- 保育園から発令を受けている
副主任保育士は職務経験が7年以上あり、職務分野別リーダーを経験している事がキャリアアップの前提の条件です。
キャリアアップ研修一覧の6分野のうち、3分野以上の専門研修とマネジメント研修を修了し、保育園から職位発令を受けることで役職に就くことができます。
主任保育士の補佐を業務内容とし、中間管理職と若手を繋ぐ役職です。
各自治体独自の処遇改善例
国だけでなく、独自で保育士の処遇改善を行っている自治体があることをご存知でしょうか。
保育士の人材確保に悩む地域は、自治体独自で保育士の処遇改善を進めています。
行政と自治体、それぞれの制度を活用する事で保育士としてより良い条件で働くことができるかもしれません。
東京都:「保育士等キャリアアップ補助金」
自治体独自の保育士処遇改善の先駆けとなったのが東京都です。
東京都は、平成27年に保育士等のキャリアアップ補助金を創設し、平成30年度には月額平均27,000円の賃金上乗せを実施しており、保育士の処遇改善に励んでいます。
待機児童問題が深刻な都心部は、問題解決に向けて更なる処遇改善を進めていく予定です。
参考:保育士等のキャリアアップ補助金の賃金改善実績報告等に係る集計結果
松戸市:「松戸手当」
千葉県松戸市の松戸手当は、市内で働く保育士に職場から支払われる給料とは別に、勤務年数に応じて月額45,000円〜72,000円の手当が支給されるという処遇改善です。
その他にも家賃補助、保育士の子供の保育費優遇、保育士就学資金貸付など様々な処遇改善が行われています。
岡山市:「賃金上乗せ・奨学金返済補助」
岡山県岡山市は、市内で働く保育士に対して月額9,000円の給料上乗せや3年間の奨学金返済の補助を処遇改善として行っています。
岡山市の補助金で職員用宿舎を用意している保育施設では、月額60,000円の家賃補助も行っており、地域独自の処遇改善が実施されています。
京都市:「家賃補助」
京都府京都市では、市独自の予算投資によって保育士の給料水準を全国平均の1.34倍まで高めています。
保育士宿舎借り上げ支援事業という処遇改善も行っており、一定の条件を満たすことで月額65,000万円以内の家賃補助を受けることも可能です。
保育士の処遇改善手当について|まとめ
- 処遇改善手当は2種類ある
- もらえる人ともらえない人がいる
- 主に給料面の改善が進んでいる
- 独自の処遇改善をしている地域もある
こちらの記事では、保育士の処遇改善手当について詳しく解説しました。
現在施行されている処遇改善策は、施設の職員の平均勤続年数で徐々に手当額が増えていく「処遇改善手当Ⅰ」と、キャリアアップとともに手当が加算される「処遇改善手当Ⅱ」の2つです。
現行の2種類の処遇改善は、主に給料面の施策で保育士の給料の低さを改善していました。
国に認定されている認可保育園が対象なので、基本的に認可外保育園では処遇改善手当を受け取ることができないので注意しましょう。
行政と別に独自の処遇改善を行っている地域もあったので「たくさん手当を受けたい!」という方は、勤務先を変えると給料アップを狙えるかもしれません。