令和3年次に、国家資格にはならないと言われていた賃貸不動産経営管理士の資格が、民間資格から国家資格へと変わりました。
賃貸不動産経営管理士がもともとなぜ、国家資格にならないと言われていたのか
また、国家資格への変更に伴う試験に関する変化や仕事内容の変化、国家資格になることで賃貸不動産経営管理士が得られるメリットなどを合わせて解説していきます。
興味のある方は是非最後までご覧ください。
賃貸不動産経営管理士はいつから国家資格?
賃貸不動産経営管理士の資格は、令和3年4月21日に発表された国土交通省令によって、民間資格から国家資格になりました。
国家資格は、宅建士のような独占業務を持つ資格もありますが、賃貸住宅管理業士は独占業務はないものの設置義務資格として分類されているようです。
民間資格から国家資格になったことで起こった試験の変化とは
まず、民間資格から国家資格になったことで試験に起こった変化をご紹介していきます。
国家資格になると試験難易度が上がったり、競争率が激しくなり合格ラインが引き上げられる印象がありますが、実際はどうなのでしょうか?
試験の具体的な変更点
試験内容の具体的な変更点としては、以下の2点が挙げられます。
- 問題数 40問 → 50問
- 試験時間 90分 → 120分
問題数が増え試験時間が伸びていることから、試験難易度は高くなっていると言われています。
論文試験や面接試験が増えたわけではなく、試験方式としては今まで通りマーク式が採用されています。
出題傾向の変更点としては、個数問題と言われる4択全ての正誤を判断しなければ正解を導けない問題が増えたことから、より正確な知識を問われることが増えたようです。
試験難易度はどんどん高くなっている
国家資格になる前から賃貸不動産経営管理士の試験難易度は、年々高くなっています。
以下に、過去5年間の賃貸不動産経営管理士資格試験の受験者数や合格率を示します。
年度 | 受験者数 | 合格者数 | 合格率 | 合格点 |
---|---|---|---|---|
平成29年度 | 16,624人 | 8,033人 | 48.3% | 27点 |
平成30年度 | 18,488人 | 9,379人 | 50.7% | 29点 |
令和元年度 | 23,605人 | 8,698人 | 36.8% | 29点 |
令和2年度 | 27,338人 | 8,146人 | 29.8% | 34点 | 令和3年度 | 32,459人 | 10,240人 | 31.5% | 40点 |
表を見ていくと、受験者数は段々と増え、5年前と比較して約2倍の人数となりました。
これは国家資格化するという話が出始め、賃貸不動産経営管理士の資格を求める人が増えたことが大きな要因だと考えられています。
しかし、受験者数が増える反面、合格率は令和元年を機に年々落ちてきています。
これは、試験内容が変更になったのは令和3年度からですが、令和元年度から国家資格化に向けて試験内容が難しくなったことが影響しています。
そして現在の合格率は大体3割となっていますが、今後も受験者数は増えると考えることができるため合格率は下がり、難易度も高くなっていくと考えられます。
国家資格になって仕事に変化はあった?
賃貸住宅管理業士は民間資格から国家資格に格上げされた訳ですが、それによって現在賃貸住宅管理業士として働いている方に変化はあったのでしょうか?
また、賃貸住宅管理企業に変化はあったのでしょうか?
国家資格に伴う仕事の変化についてご紹介します。
登録が必要な業者が増えた
賃貸不動産経営管理士は賃貸住宅管理業者で働くことがほとんどですが、今までは賃貸住宅管理業の登録は任意でよいとされていました。
しかし、国家資格になったことで管理戸数が200戸以上の管理業者は賃貸不動産経営管理士の登録が必須になりました。
この200戸とは、200の物件という意味ではなく、200部屋という意味なのでかなり多くの業者が登録をする必要があります。
また、業務管理者は営業所ごとに1人以上の賃貸不動産経営管理士を選任しなければなりません。
これは兼任が認められていないため、必要人数がふえ、賃貸不動産経営管理士の需要はさらに伸びていくと考えられています。
具体的な仕事内容の変化はない
賃貸不動産経営管理士の仕事内容は、賃貸物件を管理することになります。
具体的には、入居者同士でトラブルが発生した場合に間に立ってトラブルの解決に努めたり、工事をする際の管理、契約の締結などが挙げられます。
これらの賃貸不動産経営管理士の業務内容は、国家資格になってもあまり変わることは無く、独占業務などに指定されてもいません。
今のところ仕事内容における変化は一切ないと言えるでしょう。
国家資格になることのメリットとは?
賃貸住宅管理業士が国家資格になったことで、現在資格を所有している方からは喜びの声が上がっていますが国家資格になることで実際にどんなメリットがあるのでしょうか?
信頼性が上がる
賃貸住宅を運営している方でも、賃貸不動産経営管理士という資格を知っている方ばかりではありません。
そこで、「賃貸に関係する国家資格である、賃貸不動産経営管理士の資格を持っている」と話せば、契約や交渉の際に顧客からの信頼を得やすくなります。
国家資格であるというだけで信憑性は非常に高まりますし、設置義務もあることからその必要性が認められるようになったというのは元から持っていた方にとってうれしい話です。
知名度が上がって受験者数も増える
国家資格なのかそうではないのかによって、資格の知名度は大きく異なります。
さらに名前を知っていたとしても、国家資格である宅建士や管理業務主任者などの資格の方が受験者からは魅力的に見えていたでしょう。
しかし、賃貸不動産経営管理士も国家資格になったことで受験者が増え、資格自体の人気が増しています。
これによって仕事をする際に、顧客が賃貸不動産経営管理士を知っている可能性が高くなり、交渉などが有利に働きやすくなります。
民間資格であることに対してコンプレックスがあった?!
不動産関係の資格では、宅建士やマンション管理士、管理業務主任者などの国家資格に合格できなかった人が賃貸住宅管理業士の資格を取るという見方も一部ではあったようです。
また、そこまででは無いとしても賃貸住宅管理業士の資格はあくまでキャリアアップのためにダブルライセンスとして持っておく程度の認識が強い傾向にありました。
それが国家資格になったことで、仕事に自信を持ち始めた方もいらっしゃるようです。
賃貸不動産経営管理士は国家資格にならないと言われていた?
賃貸住宅管理業士は国家資格になるのではと言われていた一方で、国家資格にはならず民間資格のままだという意見もありました。
これには以下の2点の理由があったようです。
- 似た業務内容である宅建士の存在
- 試験難易度の違い
似た業務内容である宅建士の存在
賃貸住宅管理業士と似た業務を担当している、不動産関係の資格に宅建士があります。
宅建士は、独占業務を持つ国家資格で、賃貸住宅管理業士の上位互換であると言われていました。
つまり、賃貸住宅管理業士を国家資格にするのであれば、それは宅建士で良いのではないかと考えられていたわけです。
賃貸不動産経営管理士の業務内容に独占業務はないため実際に宅建士が賃貸不動産経営管理士の仕事を請け負う事は可能ですが、今後これらがどのような違いが生まれ業務の差が出るのか期待したいところです。
試験難易度の違い
賃貸不動産経営管理士の試験難易度が低かったことも理由とされていました。
宅建士やマンション管理士、管理業務主任者など不動産関係の国家資格の試験合格率は10~20%となっており、対して賃貸住宅管理業士の合格率は民間時に約50%でした。
突然試験の難易度を上げてしまうと、公平さに欠けてしまうため、国家資格にするのであれば大きな課題になると考えられていたようです。
現在も他士業と比較すると合格率の高い賃貸不動産経営管理士ですが、年々難易度は上昇しておりあと数年もすれば20%を切る合格率になる事も考えられます。
賃貸不動産経営管理士が国家資格になったのはなぜ?
賃貸不動産経営管理士は上記のような理由から国家資格にならないと考えられてきましたが、令よ3年より国家資格として認められるようになりました。
ではなぜ、賃貸不動産経営管理士は国家資格に変わったのでしょうか変更された背景について解説します。
国家資格へと変更された背景①:賃貸住宅管理業士登録制度の一部改訂
国家資格へと変更された背景の一つは賃貸住宅管理業士登録制度が一部改訂されたことです。
賃貸住宅管理業士登録制度とは、賃貸住宅管理業士の資格を持っていることを登録する制度で、これまで必須義務ではありませんでした。
この登録を行っている場合は、賃貸住宅の管理に規則を作り適切に管理することを決めることができるわけですが、今までの任意制度では入居・退居時、住民同士のトラブルなどに対して曖昧な対応がとられていることが多かったようです。
近年、賃貸暮らしの人口が増えたことから今回国土交通省は、この賃貸住宅管理業士登録制度の一部改正によって、管理の適正化を図る運びとなりました。
国家資格へと変更された背景②:サブリースの社会問題化
背景の2つ目にサブリースの社会問題化が挙げられています。
サブリースとは、物件を所有するオーナーに対し、手数料を受け取る代わりに賃貸管理業者が物件を管理運営するという手法です。
これにより、オーナーは得られる利益は減少しますが、面倒な管理運営を丸投げすることができます。
しかし、近年サブリースをするから物件を買わないかという誘いで、個人が物件を購入するも儲けが出ず、最終的に物件のローンを払えなくなり自己破産するという問題が多発しました。
これを受け、賃貸住宅に関する正しい知識を持ち、説明責任を果たせる人材の需要が高まっています。このことから、賃貸不動産経営管理士の設置義務や国家資格化が進んだとされています。
国家資格へと変更された背景③:国家資格化実務検討会の開催
士業には会がつきものですが、賃貸住宅管理業士にも賃貸住宅管理業士協議会という会が発足していました。
彼らは、国家資格化実務検討会を開き、賃貸住宅管理業士が国家資格になれるように努力を重ねてきました。
こういった頑張りも国土交通省に認められたと考えられています。
民間の賃貸住宅管理業士を取得した方は再度受験が必要?
令和3年度以前の試験で賃貸住宅管理業士を取得した場合でも、2時間程の簡単な講習を受け効果測定に合格すれば国家資格として認められるようになっています。
この移行講習は、申し込みを行うと受験者の自宅にテキストが届き、オンラインで授業を受け効果測定ができるためすぐに済ませることができます。
しかし、この移行講習は令和3年度の5月から1年間のみ行われているため、それを過ぎて講習を行っていないと再度受験が必要になります。
つまり、現在民間資格の賃貸不動産経営管理士資格を所持しており、講習を受けていない場合はもう一度国家資格として賃貸不動産経営管理士試験を受験する必要があります。
賃貸住宅管理業士の国家資格化についてまとめ
今回この記事では、賃貸住宅管理業士の国家資格化についてその背景や、国家資格になったことで何が変わったのかなどをご紹介してきました。
国家資格になったことで最も大きく変化したのは試験内容で、時間・問題数が共に増え、難易度も上がり、合格率は減少しました。
そしてこの先、受験者は増加していくことが予想され、試験内容はさらに厳しくなっていくと考えられます。
試験以外で変わった点としては、国家資格になったことで設置義務が発生し、より需要が高まったことや、賃貸住宅管理業士に対する不動産業界の見方が変わったことが挙げられます。
また、国家資格になった背景としては、賃貸住宅をより適切に管理するために国土交通省が制度を変更した事と賃貸住宅管理業士協議会の努力が認められたことだと考えられています。
賃貸住宅管理業士はこれから、宅建士やマンション管理士などのように需要が増していく国家資格だと予想されるため、お勧めの資格となっています。