ドラマ「イチケイのカラス」では、元弁護士の裁判官が奮闘する様が描かれています。
実際に近年、弁護士から裁判官への転職を国が推進しており、様々な転職方法が確立されています。
とはいえ、弁護士から裁判官への転職は簡単なものではありません。
今回は、弁護士から裁判官への転職は現実的に可能なのか、なり方はどんな方法があるのかを中心にご紹介していきます。
同じ法定で働くこともある2つの職業ですが、転職する難易度や年収の違いはあるのか、詳しくご紹介していきます。
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弁護士から裁判官になれる!?
「イチケイのカラス」で活躍している通り、現実的に、弁護士から裁判官になる事は”可能“です。
裁判官として活動する方法は2つあり、裁判官に転職して働く常勤任官と、弁護士として働きつつ週1日は裁判官として活動する非常勤任官があります。
ここ10年間の常勤任官者は約50人、非常勤任官者は約400人となっており、任官者はかなり少なく難易度が高いです。
弁護士から裁判官へのなり方
弁護士から裁判官になるためには、常勤任官か非常勤任官される必要があります。
弁護士から裁判官への流れは以下の通りです。
- 法律事務所・任官支援事務所・公設養成事務所のいずれかに入所
- 応募条件を揃えて任官に応募
- 任官を受けたら裁判官として活動する
なり方①法律事務所・任官支援事務所・公設養成事務所のいずれかに入所
裁判官として働くためには、法律事務所や任官支援事務所、公設養成事務所のどこかで最低3年以上の弁護士経験がないといけないため、まずは事務所に所属して弁護士経験を積みます。
弁護士として活動する上で法律事務所に入るのが一般的ですが、任官支援事務所や公設養成事務所に入る人もいます。
任官支援事務所は裁判官に転職したい人の支援をする事務所で、公設養成事務所は弁護士としてのスキルを磨きたい人を育成する事務所です。
複数の事務所を掛け持ちすることはできませんが、事務所を変更することはできます。
任官支援事務所の入所は様々な方法があるので以下で詳しく紹介します。
任官支援事務所について
任官支援事務所の入所方法は3つあり、それぞれ対象者が違います。
- 新人受入型
- 対象者:修習生もしくは弁護士経験3年未満の弁護士
条件:弁護士経験5年以上で任官すること
支援内容:事件の共同受任などを通して実務能力を向上させる支援
- 任官希望者受入型
- 対象者:弁護士経験5年以上の弁護士が任官に応募手続をした人
支援内容:手持ち事件の引継ぎや新件を円滑に行えるようにするなどの支援
- 任官内定者支援型
- 対象者:任官の内定が決まった人
支援内容:任官までの短期間の受け入れ、事件などの引継ぎ、事務職員の雇用などの支援
なり方②応募条件を満たしたら任官に応募
上記の事務所で弁護士経験を3年以上積んだら常勤任官に応募でき、弁護士経験を5年以上積んだら非常勤任官に応募できます。
常勤任官と非常勤任官では、応募条件や選考過程が異なるため分けて紹介します。
また、常勤任官は判事補と判事の任官がありますが、非常勤任官は区分がないため1つのみです。
常勤任官の応募条件と選考過程
・弁護士経験3年以上で判事補任官、弁護士経験10年以上で判事任官
・年齢55歳までの人
・懲戒処分を受けたことがない人
弁護士経験が3年以上あれば判事補に、10年以上あれば判事に応募することができます。
1.応募
2.弁護士任官推薦委員会で推薦手続き
3.最高裁への任官申込
4.最高裁の局長クラスの人と面接
5.下級裁判所裁判官指名諮問委員会審査を通過
6.最高裁判官会議で採否
7.採否の内定通知
8.閣議決定(内閣による任命)
簡単に6つのステップでまとめましたが、応募から任官まで最低でも1年かかります。
非常勤任官の応募条件と選考過程
・弁護士経験5年以上の人
・年齢55歳までであることが望ましい
・週1回、丸1日勤務できる人
非常勤任官の応募条件は、弁護士経験5年以上と毎週勤務できることです。
1.応募
2.弁護士任官推薦委員会で推薦手続き
3.最高裁への任官申込
4.実施庁の長らによる面接
5.最高裁による採否の決定
6.内定通知が出る
非常勤任官の選考過程は常勤任官に比べて簡易化されているため、応募から内定が出るまで約半年です。
なり方③任官を受けたら裁判官として活動する
常勤任官か非常勤任官を受けたら裁判官として活動します。
常勤裁判官の場合は判事補として経験を積み、判事昇格を目指していきましょう。
ほとんどの人は、判事補としての経験を10年してから判事になることが多いため、しっかり経験を積んでいくことが大切です。
非常勤裁判官の場合は昇格などがないため、弁護士としての活動をしながら週に1日間は裁判官として活動します。
裁判官は弁護士経験も必要である
今の日本では、裁判官に弁護士の経験をさせたほうが良い、弁護士経験者が裁判官になったほうが良いという意見が多くなりつつあります。
このことから、今回ご紹介した弁護士から裁判官への転職制度のほか、判事補や判事が弁護士の職務を経験できる「弁護士職務経験制度」も導入されています。
弁護士職務経験制度というのは判事補や検事が弁護士の職務を経験する制度のことで、裁判官に弁護士経験をさせる取り組みです。
なぜここまで弁護士の経験が大切だと言われているのでしょうか?
被告人の映り方は弁護士と裁判官で違う
弁護士にとっての依頼者(被告人・被疑者)と、裁判官にとっての被告人は別の映り方をします。
この説明はドラマ「イチケイのカラス」がとても良い例に挙げられます。
イチケイのカラスの主人公は、被告人の真実を突き止めるために、裁判官であるにもかかわらず泥臭く真実を突き詰めます。
実際にはこのような裁判官は少なく、裁判官の経験しかない人は弁護士や被告人に対して中立的でありながらも厳しい目を向けています。
そこで、裁判官の経験だけでなく弁護士経験もあれば、より良い裁判に繋がるということです。
弁護士から裁判官に転職する難易度が高いのはなぜ?
冒頭で、任官者が少ないことや長期間に渡る選考過程があると話してきましたが、なぜ裁判官へ転職する難易度が高いのでしょうか?
難易度が高い大きな理由は、”人数の壁“と”選考基準“にあります。
また、どちらも優秀であることが前提となるため、そもそも希望者が少ないということも理由の1つでしょう。
裁判官へ転職できる人は一握り
弁護士は非公務員なので定員がないのに対し、裁判官は公務員の1つですので人数に定員があります。
毎年1500人ほどの司法修習生がいますが、裁判官になれる人は70人程度なので、上位数%の人しか裁判官になれません。
司法修習生で選ばれなかった人が弁護士になるわけですから、当然弁護士から裁判官に転職できる人も少なくなってきます。
選考基準が高い
転職するためには任官を受ける必要がありますが、選考過程で推薦や面接が必須項目になっています。
推薦は、弁護士会や地域ごとの弁護士連合会の推薦を受ける必要があり、弁護士として高い評価を得ていなければ推薦されません。
推薦を得た後は面接も合格する必要があるため、最終合格者は推薦された半数しかいません。
弁護士から裁判官に転職すると年収は上がる?
弁護士から裁判官に転職すると年収は上昇するのでしょうか?
まずは、弁護士と裁判官のそれぞれの平均年収から見ていきましょう。
職種 | 平均年収 (全体) |
平均年収 (30歳) |
平均年収 (40歳) |
平均年収 (50歳) |
---|---|---|---|---|
弁護士 | 約500~1,000万円以上 | 約750万円 | 約1,000万円 | 約950万円 |
裁判官 | 約800~1,000万円以上 | 約600万円 | 約1,000万円 | 約1,800万円 |
この表での平均年収は、各年代のおおよその金額になります。
裁判官であれば判事や判事補としての差、弁護士であれば働く環境や依頼数の違いがあるため、年収の振れ幅はかなり大きいです。
そのため、稼げていない人とすごく稼いでいる人の二極化になる場合があります。
全体的に若いうちは弁護士の収入が高く、裁判官は階級によって収入が上昇するため年功序列のように上昇していきます。
では、若いうちに弁護士として働き、その後裁判官に転職すると年収が上がるのでしょうか?
残念ながら必ずしも上がるわけではありません。
裁判官の収入は階級で決められているため、弁護士の方が稼げていたかもしれませんし、最初は低い階級からとなると年収もそこまで高くありません。
ですが、裁判官の階級が上がれば年収もアップするため、将来の年収を上げたり安定させるという面では、裁判官に転職するメリットがあると言えます。
弁護士から裁判官へのなり方まとめ
- 弁護士として経験を積めば裁判官に転職できる
- 弁護士から裁判官として活動する方法は常勤任官と非常勤任官がある
- 裁判官に転職するには厳しい選考過程を通過して任官を受けなければならない
今回は弁護士から裁判官のなり方をはじめ、弁護士経験の必要性・転職難易度・年収についても詳しく解説してきました。
弁護士と裁判官どちらも、人の人生を左右する場に関わる大事な職業です。
弁護士経験のある裁判官はより良い裁判ができるため、需要が高まっており、非常勤裁判官として働く人も増えています。
裁判官になるためには弁護士経験を3年以上する必要があるので、弁護士として働きながら裁判官転職について考えてみると良いでしょう。
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