弁護士になるためには司法試験に合格する必要がありますが、そもそも司法試験を受けるには受験資格の条件を満たしていなければなりません。
そこで今回は、弁護士を目指して司法試験を受験する際の受験資格や、司法試験を受験できるようになるルートについて詳しく解説します。
また、弁護士になるための司法試験合格後の流れや、就職スケジュールなどについても解説します。
司法試験は簡単になった?難易度の変化や点数を取りやすい試験科目をご紹介!
弁護士とは
弁護士は法律を駆使して権利を保障し、紛争の解決や契約交渉を行う職業です。
主に刑事裁判での被疑者や被告人の代理を務め、無罪を主張するなどして被告人の権利を守ります。
また、民事分野では私人間の権利義務関係について代理人として請求し、離婚協議や調停なども担当します。
さらに、M&Aや資金調達など企業法務の専門性の高い業務や企業の法務部でのインハウス業務、破産管財人業務など多岐にわたる専門分野を持ちます。
弁護士の活動領域は広く、多種多様な働き方が可能です。
就職先としては多くが法律事務所になりますが、一部は企業内弁護士(インハウスローヤー)としてのキャリアを選ぶこともあります。
各法律事務所では、規模や専門性が異なり、多様な法的サービスを提供しているので自分に合ったところを選ぶことが大事です。
弁護士の給与相場
厚生労働省の令和5年賃金構造基本統計調査によると、弁護士の平均年収は約1,176万円といわれています。
内訳としては、月収約82万円に年間ボーナス約203万円が加わる形で算出されています。
一方、日本弁護士連合会の令和3年の弁護士実勢調査では、収入の中央値が約1,437万円、所得の中央値が700万円であることが明らかにされています。
以上のことを踏まえ、国税庁の統計による民間企業の給与所得者の平均年収が433万円であることを考慮すると、弁護士の平均年収は一般のサラリーマンよりもはるかに高いと言えます。
弁護士になるには専門的な知識やスキルが必要であり、だれでもできる仕事ではないからだと考えられます。
弁護士の就職先や主な活躍の場とは?法律事務所以外にもあるの?
弁護士になるには司法試験への合格が必須
弁護士になるために突破しなければならない「司法試験」とは、法曹三者(弁護士・裁判官・検察官)になるための知識や見識、応用力を見極めるために実施される国家試験です。
弁護士を含む法曹を目指すにあたって、司法試験を突破することは絶対条件ですが、国家資格の中でも司法試験は文系最難関とも称されるほど難易度が高い特徴があります。
司法試験では、弁護士や裁判官、検察官になるために必要な学識や応用能力を身に着けているかを正確に評価するため、知識だけでなく法律に関する倫理的で実践的な理解力・判断力・思考力を判断されるのも特徴です。
また、司法試験の受験資格を取得すること自体も、非常に難易度が高いといわれています。
司法試験の受験資格には回数制限がある
司法試験の受験資格には、5年間で5回までという回数制限が設けられています。
そのため、5回不合格になって受験資格が失効した場合、法科大学院ルートもしくは予備試験ルートから、再度本試験の受験資格を取得しなければなりません。
これは、平成26年10月1日より施行された、司法試験法の改正によるものです。
(2) 司法試験の受験回数制限の緩和
ア 司法試験の受験できる回数の制限を廃止する。
法科大学院課程の修了の日又は司法試験予備試験の合格発表の日後の最初の4月1日から5年の期間内は毎回受験することができる。
イ 特定の受験資格に基づく最後の受験をした日後の最初の4月1日から2年を経過するまでの期間は,他の受験資格に基づいて司法試験を受けることができない旨の規定を廃止する。
※ 改正法施行日前に司法試験の受験資格を得た方について,既に3回司法試験を受験している場合も,同資格を得た最初の4月1日から5年の期間内であれば平成27年以降の司法試験の受験が可能となります。
平成26年に実施された司法試験法の改正によって受験回数の制限が緩和されるまでは、5年間に3回までの制限が設けられていました。
やや緩和したものの、受験資格の再取得は負担が大きいため、司法試験受験の回数制限内に合格できるように、試験対策を入念に行う必要があります。
司法試験に一発合格する人の割合は?平均受験回数・受験回数別の合格率・現役合格率を調査
司法試験合格から弁護士として事務所採用・業務開始するまでの流れ
ここでは、弁護士になるための流れについてご紹介します。
➀予備試験合格もしくは法科大学院を修了する
司法試験の受験資格は、以下の2パターンのうちのいずれかが必須です。
- 法科大学院ルート
- 予備試験ルート
まずは上記のいずれかのルートで、司法試験を受験できる資格を取得しなければなりません。
予備試験ルートでは、予備試験に合格することで司法試験の受験資格を得られ、法科大学院ルートは法科大学院に進学し、修了もしくは修了見込みとなった段階で司法試験を受験できるといった違いがあります。
法科大学院ルートとは
司法試験の受験資格を得るには「法科大学院(ロースクール)を修了する」というルートがあります。ただし、このルートで司法試験の受験資格を得るには、まず法科大学院に進学するための受験資格を満たさなければなりません。
法科大学院の受験資格を得るには、原則として4年制大学を卒業している必要があります。
しかし、出身大学までは問われないため、国公立・私立問わず4年生大学を卒業していれば受験できます。
法科大学院ルートで司法試験を受験する場合は、法科大学院への受験を突破し、かつ必要課程を修了した場合にのみ、司法試験の受験資格を得ることができます。
予備試験ルートとは
司法試験の受験資格を得るもう1つの方法は「司法試験の予備試験に合格する」というルートです。
予備試験ルートにはとくに受験資格が設けられておらず、年齢や学歴に関係なくどなたでも受験することができます。司法試験予備試験に合格すれば、法科大学院に進学しなくとも司法試験の受験資格が取得可能です。
予備試験ルートを辿れば法科大学院を経ずに弁護士になれるため、4年生大学を卒業していない16歳での最年少合格者も出ています。
間口が広く、年齢・学歴問わず誰にでも受験資格が得られる選択肢として、注目されている司法試験の受験方法です。
②司法試験への合格
予備試験に合格するか法科大学院を修了した後、法曹三者(裁判官、検察官、弁護士)になるためには司法試験の合格が必要です。
司法試験は弁護士を目指す者にとっては欠かせない国家試験であり、令和5年(2023年)からは7月に実施されています。
試験形式は、3日間にわたる論文試験と1日の短答式試験で構成されています。
詳しい試験内容については以下の通りとなり、毎年法務省のホームページでチェックできます。
【試験科目】
<短答式試験(マークシート形式)>
憲法 <20~25間程度 / 50点満点>
民法 <30~38間程度 / 75点満点>
刑法 <20~25間程度 / 50点満点>
<論文式試験(長文の具体的事例問題)>
◆公法系
憲法・行政法 <2問 / 各100点満点 計200点満点>
◆民事系
民法・商法・民事訴訟法 <3問 / 各100点満点 計300点満点>
◆刑事系
刑法・刑事訴訟法 <2問 / 各100点満点 計200点満点>
◆選択科目 (以下から1科目選択)
倒産法
租税法
経済法
知的財産法
労働法
環境法
国際関係法(公法系)
国際関係法(私法系)
<各科目2問 / 計100点満点>
ちなみに成績については短答式試験の成績通知書の発想が8月上旬、11月上旬に合格発表といった流れが通年です。
③司法修習を受ける
④司法修習生考試(二回試験)への合格
司法修習を修了した後、司法修習生は司法修習生考試(通称:二回試験)を受験します。
司法修習生考試は司法試験に続く二回目の試験であり、合格することによって弁護士、判事、検察官としての資格が得られます。
法曹としての実務能力を評価する重要なステップです。
⑤弁護士登録
司法試験に合格するために学歴は必要?高卒・中卒からの目指し方
【最新版】司法試験の受験回数制限はなぜある?5回落ちたら受験資格喪失?
社会人から弁護士を目指すには
社会人が弁護士を目指す場合、多くが予備試験ルートを選ぶことが一般的です。
なぜなら、法科大学院の授業が主に日中に行われるため、仕事を続けながらの通学が困難だからです。
社会人受験生は学生に比べて勉強時間が限られていますが、効率的な学習方法を取り入れることで、短時間でも予備試験に合格することができます。
例えば、アガルートでは「司法試験・予備試験最短合格カリキュラム」を提供しており、5分〜10分の隙間時間を利用して勉強できる動画や音声ダウンロード機能、倍速再生機能などを活用できます。
また、デジタルブック形式のフルカラーテキストを使うことで、場所を選ばずに学習することが出来るので働きながらでも学習を進められます。
大学生から弁護士を目指すには
大学生が弁護士を目指す場合、予備試験合格を最初の目標として設定し、万が一失敗した場合に法科大学院への進学を検討するのが一般的なアプローチです。
予備試験と法科大学院入試の学習内容は大部分が重なるため、予備試験の準備を優先することで、より効率的に弁護士資格を目指すことができます。
予備試験の勉強は最低でも1年は必要とされているため、大学2年生のうちに学習を開始するのが理想的。
大学生は比較的学習時間を確保しやすいものの、効率的に学習を進める必要があります。
弁護士の就活はいつから始めればいい?
法律事務所への就職活動は、大きく分けて司法修習開始前と司法修習開始後に分かれますが、特に早期に動くことが推奨されています。
予備試験合格者は、予備試験の最終合格発表時期にインターンシップが始まり、これが実質的な選考の場となることが多いです。
一方、法科大学院の最終学年の学生は、最終学年の夏からインターンシップに参加することが一般的ですが、学部生や1、2年生も参加可能なプログラムもあります。
就職活動は、司法試験を受ける半年以上前から始めることが多く、特に大手法務事務所を目指す場合は、司法試験後から始めると遅すぎる場合があります。
そのため、予備試験合格者は合格発表前後、法科大学院生は最終学年の夏頃に就職活動を開始するのがおすすめです。
弁護士の一般的な就活スケジュールとは
ここでは、一般的に弁護士として働く上での就活スケジュールについて就職先ごとにご紹介します。
大手法律事務所への就職を目指す場合
手法律事務所を志望する場合、司法試験の前から就職活動が本格化し、多くの事務所は司法試験の合格発表を待たずに受験生に内定を出す傾向にあります。
2023年度より試験日程が2ヶ月延期された影響で、多くの大手事務所における77期修習予定者向けのサマークラークが既に終了している可能性が高いです。
そのため、サマークラークに参加できなかった受験生は、個別訪問を活用するのがおすすめです。
個別訪問では事務所の弁護士と直接接点を持ち、自己アピールのチャンスも得られるため、就職活動において重要な手段となります。
準大手・中堅法律事務所への就職を目指す場合
準大手や中堅法律事務所を志望する場合、通常司法試験後から司法修習前に就職活動を行います。
以前はこの活動期間が9月から12月の3ヶ月間でしたが、2023年度からは11月から翌年3月までの5ヶ月間に延長されたので注意が必要です。
上記の変更により、事務所の採用活動にも多少の変化が見られる可能性がありますが、合格発表の前後に求人が増加する傾向には変わりありません。
以上のタイミングでのみ採用活動を行う事務所もありますので、修習開始前で時間的な余裕があるこの期間に、本格的に就職活動を行うことをおすすめします。
また、東京三弁護士会による就職合同説明会が秋ごろに実施されるため、イベントを活用するのも有効となるでしょう。
一般・地方法律事務所への就職を目指す場合
一般・地方法律事務所を志望する場合、司法試験の合格発表後から就職活動を始め、司法修習終了までに就職先を決定します。
活動は修習の合間を縫って進める必要があるため、効率的に進めるためには早めに情報収集や自己分析を行い、応募書類の準備をしておくことが推奨されます。
司法修習のスケジュールを確認し、忙しい時期や余裕がある時期を把握すること、そして気になる事務所の採用情報をリサーチするなどして、就職活動の計画を立てることが重要です。
司法試験合格後、弁護士として独立するのもひとつ
「即独弁護士」とは、司法修習を終えた直後に自分の事務所を立ち上げる弁護士のことを指します。
即独する場合、既存の事務所の業務を引き継ぐわけではないため、自分でクライアントを見つけ出し、仕事を獲得する必要があります。
しかし即独弁護士は生活費や事務所の維押さえコストもかかるため、特定の専門分野に特化することは難しくなりますが、一方で幅広い業務に挑戦できるメリットもあります。
即独弁護士は国選刑事事件、一般民事事件、家事事件など様々な業務を手掛け、実務を通じて自身の専門性を見つけることができます。
近年では即独のケースは減少傾向にあり、多くの弁護士が法律事務所での勤務を経て、専門性を磨いた後に独立するケースが主流になりつつあるといわれています。
もし勤務弁護士から独立する場合、以前の事務所で扱った業務を専門とすることが一般的であり、企業法務や知的財産、労働事件など多様な分野で活動できます。
とくに大手法律事務所出身の弁護士は、独立後も以前の顧客から仕事を受注することがあるため選択肢のひとつとして検討してみるといいでしょう。
弁護士として開業する際にかかる費用
弁護士として独立開業する際の費用は、自宅で開業する場合は約50万円、外部の事務所を賃貸する場合は100万円から300万円が必要となるといわれています。
さらに、月々の運営経費として30万円から50万円がかかり、事務員を雇用する場合はその給料として20万円から30万円が追加されます。
つまり、事務所を黒字にするためには、これらのコストを上回る収入を毎月確保する必要があるということですね。
しかし最近では、日本弁護士会連合会からの地方開業弁護士向けの経済的支援や、新人弁護士の独立支援制度など、様々な支援策が充実しています。
上記の制度を利用することで、開業後の経済的負担を軽減し、事業の黒字化を実現することができるのでぜひ活用してみてください。
弁護士になるには費用がいくらかかる?司法試験・予備試験の費用や勉強代は総額いくらか解説
弁護士のおもな就職先
弁護士の主な就職先は法律事務所と企業(インハウスローヤー)です。
法律事務所は「業務分野」と「規模」で分類され、業務分野には一般民事、企業法務、刑事事件の3種類があります。
規模に関しては、大手事務所(五大を含む)、弁護士数が100~50名の準大手事務所、そして50名未満の中堅・中小事務所に分かれます。
各事務所の種類によって働き方、待遇、求められる人材が異なります。
そこでここでは、弁護士の主な就職先や特徴についてご紹介します。
法律事務所
企業(インハウスローヤー)
法律事務所以外での弁護士の就職先として、企業内弁護士(インハウスローヤー)があります。
企業で働くメリットとして、法律事務所に比べて残業が少ない、福利厚生が充実しているなどが挙げられ、そのため人気が高まっています。
インハウスローヤーとして働く企業の業界によって、身に付くスキルや必要とされる法分野が異なります。
具体的には金融、IT、製造業など、それぞれの業界特有の法的課題に対応する知識と経験が求められます。
官公庁・公的機関
官公庁や公的機関にも弁護士が所属しており、ここでの雇用形態は省庁や地方自治体の任期付き公務員、常勤・非常勤職員が一般的です。
司法試験合格者向けの国家公務員試験もあり、官公庁や公的機関での勤務は将来弁護士として独立や転職した際に他の弁護士と差別化を図る有利な経験となり得ます。
転職活動を行いながら、官公庁・公的機関に挑戦することもひとつです。
法テラス
法テラスは、法的トラブルで困っている人から相談を受けたり、経済的理由から弁護士等への依頼が難しい人を支援する機関です。
法テラスでは専属のスタッフ弁護士を採用しており、国選弁護事件や出張法律相談などを行なっているので弁護士として働くのもいいでしょう。
新卒採用の場合は法テラスで働く前に一般の法律事務所で1年間のOJTが課されるため注意が必要です。
弁護士の就職先や主な活躍の場とは?法律事務所以外にもあるの?
弁護士として就職する際に職場選びで重視すべきポイントとは
職場選びに重要なチェックポイントには、以下のような要素があります。
まず、所属弁護士の修習期や弁護士同士の関係性、昇給の実績、案件の割合、実際の勤務時間、集客方法が挙げられます。
具体的には法律事務所がHP上で広範囲の業務を扱っているように見えても、実際は限られた案件のみを受けており、経験を積むのが難しい場合があるため、案件の実際の割合を確認するようにしましょう。
また実際の勤務時間は求人票ではわからないことが多いため、面接や先輩との面談で確認したり、集客方法をチェックすることで、事務所の特性や将来性を把握することができます。
ほかにも、ワークライフバランスや年収、個人受任の可否、事務所の規模など、自分の希望に合った軸で職場を選ぶことも大事です。
全ての希望を満たす理想的な職場を見つけるのは難しいでしょうが、優先順位を立てておくことをおすすめします。
弁護士を専門に取り扱うエージェントの利用も有効なのでぜひ活用してみてください。
弁護士の就職活動で必要なものとは
弁護士や司法修習生が就職活動を行う際に必要となる主な書類には、履歴書、自己PR書、司法試験の結果表、法学部やロースクール時代の成績表が就職で必要となります。
上記の書類は、特に司法試験の成績や学歴が評価の対象となる場合が多く、しばしば履歴書と共に提出が求められます。
履歴書や自己PR書は、自身の第一印象を形成する非常に重要な書類であるため、応募する各事務所の特性に合わせて内容を丁寧に作り込むことが重要です。
書類の準備には時間がかかることが予想されるため、早めに取り掛かるのがおすすめです。
適切な準備と注意深い対応により、余裕をもって就職活動を効果的に進めるようにしましょう。
弁護士として働くなら職場選びが大事!
今回は、弁護士を目指して司法試験を受験する際の受験資格や、司法試験を受験できるようになるルートについて詳しく解説
弁護士になるためには司法試験を受験しなければならず、さらに司法試験を受験するための受験資格の条件を満たす必要があります。
司法試験の受験資格を得る方法は、法科大学院を修了するか予備試験に合格する方法の2種類です。
予備試験は受験資格が必要ないため、学歴や年齢なく試験を受けることができるので受験へのハードルは比較的低めです。
また弁護士として実際に働く際は徹底したスケジュール管理と対策が必要です。
一般企業や法律事務所に就職する以外にも独立も選択肢のひとつ。
今回の記事を参考にぜひ弁護士就職を目指してみてください。