司法書士は弁護士などと同様に、国家資格試験を受けて合格し、免許を取得しなければなれない職業です。
その為、司法書士は年収がとても高いというイメージを持っている人も多いですし、年収が高そうだから司法書士を目指しているという人もいるのではないでしょうか?
しかし、一方で司法書士の年収はとても低いという声もよく聞かれます。
本記事では、司法書士の年収についての解説と、企業に所属している場合と独立開業をしている場合の収入差について解説します。
司法書士の平均年収は約1,121万円
日本全国の司法書士の平均年収は約1,121.7万円※に達しています。
この数字は、令和6年度のデータに基づいており、令和4年度の平均年収971.4万円から比べると、約150万円の顕著な増加が見られます。
また「司法書士」という仕事についている方の平均年収を年齢別で調査すると、以下のような数値になります。
年齢 | 年収(年齢別) |
---|---|
~19歳 | 0 |
20~24歳 | 295.76 |
25~29歳 | 603.07 |
30~34歳 | 597.45 |
35~39歳 | 693.66 |
40~44歳 | 1043.81 |
45~49歳 | 967.76 |
50~54歳 | 981.65 |
55~59歳 | 952.61 |
60~64歳 | 1790.56 |
65~69歳 | 0 |
70歳~ | 349.68 |
※参考:厚生労働省|司法書士 – 職業詳細 | job tag(職業情報提供サイト(日本版O-NET))より
司法書士という職業は、その専門性と責任の重さが反映された結果と言えるでしょう。
この職業群では、独立開業する者と雇用される者がいますが、その年収には大きな差が存在します。
独立開業の場合、業務の量や収益性によって収入が大きく変動し、成功すれば非常に高収入を得る可能性があります。
一方、雇用される司法書士の場合は安定した収入を得られるものの、独立開業に比べると収入の上限は低めです。
年収が200万円台の人もたくさんいる
平均年収が1,000万円台というのは、あくまでも司法書士全体の平均で、実は司法書士というのは収入格差がとても大きい職業となっています。
全国的にも有名な司法書士であれば、年収1億円を超えるという人もいますし、一定以上の実績を持っている司法書士であれば、年収1,000万円を超える方もいます。
ところが、司法書士になったばかりで実績が少ないという方の年収はとても低く一般的なサラリーマンと同程度の年収しかないという方も居たり、中には何年経っても年収200万円台から抜け出せない、という方も存在します。
20代、30代の司法書士に限って言えば、平均年収は200万円から500万円台というのが現状でしょう。
少し古いデータとなりますが、2015年の司法書士の収入の割合を見ても、半数以上が一般サラリーマンの年収とほぼ変わらない、あるいは低い年収となっていることが分かります。
出典:司法書士の年収について本音を語ります【給料・売上のデータも】 | currentsogo
都市部か地方によっても年収の差が大きい
また、司法書士は都市部か地方かといった地域によっても年収が大きく異なる職業です。
司法書士の仕事として真っ先に思い浮かべるのは、不動産売買の際に提出する書類作成の代行です。
不動産は地方よりも都市部のほうが多いですから、必然的に登記代行の仕事は地方よりも都市部のほうが多くなります。
司法書士の仕事はそのほかの業務も「人が関わってくる」仕事ですので、人口が多い都市部のほうが地方よりも仕事量が多いため、年収は高くなり、地方に勤める新人の司法書士は、一般的なサラリーマンよりも低い収入になりやすい傾向にあります。
【就労形態別】司法書士の平均年収
司法書士の平均年収は、雇用形態によって大きく異なります。
司法書士の就労形態
- 企業所属の司法書士
- 独立開業した司法書士
例えば、勤務司法書士は安定した収入を求める場合に適している一方で、独立開業は高収入を目指す者には大きなチャンスを提供しますが、それには高いリスクと責任が伴います。
ここからは、司法書士の就労形態別で稼げる年収の平均額をそれぞれ紹介します。
勤務司法書士の平均年収
勤務司法書士の年収は、多くが比較的低めに設定されています。
令和3年度の調査※によると、最も多くの回答者が「300万円~400万円未満」の範囲に属しており、これは全体の21.0%を占めています。
しかし、全体の約36%が500万円以上の年収を報告しており、経験と職場の選択によっては、平均的なサラリーマンの収入を上回ることも十分に可能です。
さらに、大手法律事務所や専門性が高い分野での勤務は、年収が500万円を超えるケースが一般的です。
※参考:司法書士実態調査集計結果(司法書士白書2021年度版)より
独立開業した司法書士の平均年収
独立開業した司法書士の年収は大きく分散しており、令和元年のデータ※では「1,000万円以上」と回答した者が全体の約39%を占めています。
特に「1,000万円から4,999万円」の区間が最も多い回答であり、これは全体の約31%です。
独立開業司法書士は、自身の営業能力や専門知識が直接収入に反映されるため、努力と能力次第で高収入を実現できます。
また、独立後の市場での立ち位置や顧客基盤の構築が収入差の大きな要因となります。
※参照:司法書士白書2021年度版より
【男女別】司法書士の平均年収
日本の勤務司法書士の平均提示年収において、男女間での差は非常に小さいことが明らかになっています。
OECDの統計※によれば、男女間の平均年収差はわずか55,572円で、驚くべきことに女性の方が平均的に高い年収を得ています。
この現象は、経験年数が長い女性司法書士が調査対象に多く含まれていたためと考えられます。
一般的にOECD加盟国の中で、日本は男女間の賃金格差が大きい国の一つですが、司法書士の職業においてはその差がほとんど見られないという結果は、他の業界と比べて特異的です。
これは「司法書士」という職業柄、専門性が高く、資格を持っていること自体が評価の基準となり得るため、性別による収入の差が出にくい環境が形成されていることを示唆しています。
また、司法書士として活躍している女性は、男性と同等、あるいはそれ以上に稼ぐことが可能であり、性別による制限なく、その能力を発揮できる場があることが大きな魅力です。
実際に多くの女性司法書士が「非常に満足」「やや満足」と回答していることからも、職場での平等が保たれていることが伺えます。
【実務経験の有無別】司法書士の平均年収
実務経験の有無が司法書士の平均提示年収に与える影響は顕著であり、その差は年代別にも異なる傾向が見られます。
ここからは、実務経験がある方と未経験者の平均年収を年齢別で解説していきます。
実務経験がある場合の平均年収
実務経験を持つ勤務司法書士の平均提示年収は、年代ごとに異なる傾向を示しています。
OECDの統計※によると、20代の平均年収は約395万円と比較的低く、これは経験年数が短いためと考えられます。
しかし、30代以降では年齢が上がるにつれて年収も上昇し、平均年収は430万円前後に安定します。
これは、年齢が高くなるほど蓄積された経験と専門知識が評価され、年収に反映されるためです。
未経験者の平均年収
未経験の勤務司法書士の場合、年齢に関わらず年収は比較的均一です。
20代の平均年収は約350万円で、これは新卒やキャリアチェンジの初期段階でのスタートラインと見られます。
30代から50代では、前職の経験やスキルが考慮され、平均年収は370万円前後になります。
また、60代では再雇用制度の適用により年収がやや低下し、平均で約347万円となっています。
近年の市場の変化に伴い、未経験者の平均提示年収は上昇傾向にあります。
2023年には平均年収が約389万円に達し、これは過去数年間で見られる顕著な増加です。
この増加は、司法書士資格者の需要が高まっていること、そして業界内での健全な競争が未経験者の待遇改善を促しているためです。
司法書士の業務内容と報酬額
司法書士は多岐にわたる法律業務を担当し、それぞれの業務に対しては特定の報酬が設定されています。
ここでは、主な業務とそれに対する報酬について詳しく解説します。
登記業務と報酬
司法書士の基本業務である登記業務には、以下のものが含まれています。
登記業務の内容
- 不動産登記
- 商業登記
- 人登記
- 舶登記
- 権譲渡登記
- 産譲渡登記など
これらの登記作業は、特定の知識と精密さを要求されるため、報酬額もそれに見合ったものとなっています。
登記業務 | 報酬目安 |
---|---|
抵当権抹消登記 | 約1.5万円 |
所有権移転登記 | 約5万円 |
相続登記 | 約5万円~約10万円 |
会社設立登記 | 約10万円 |
複雑な案件ほど報酬は高くなります。
裁判所に提出する書類作成業務と報酬
司法書士が扱う裁判所への提出書類の作成は、その専門的知識を要する業務の一環であります。
裁判所に提出する書類作成業務
- 相続放棄の申述申立て
- 成年後見人の選任申立てなど
司法書士は、これらの業務に対する報酬はその複雑性や責任の重さに応じて設定されています。
一般的な報酬目安としては、以下の通りです。
主な書類作成業 | 報酬目安 |
---|---|
相続放棄の申述申立て | 5万円 |
成年後見人の選任申立て | 5万5000円 |
遺言書検認の申立て | 3万円 |
さらに、司法書士は訴状・答弁書や準備書面などの訴訟関連書類の作成も行います。
これらの文書も裁判の進行において重要な役割を担い、その報酬は文書の種類や案件の複雑さによって異なりますが、通常3万円から5万円の範囲で設定されています。
その他の書類に関して、司法書士は様々な法的ニーズに対応する書類を作成し、それぞれの業務に見合った報酬を得ています。
司法書士が作成できる書類の種類
- 訴状・答弁書・準備書面等の訴訟関係書類
- 個人再生手続申立書・破産手続申立書
- 支払督促申立書
- 少額訴訟手続書類
- 後見等開始申立書
- 遺言検認申立書
- 相続放棄申述書
- 失踪宣告の申立書
- 不在者財産管理人選任の申立書
これにより、司法書士はその専門性を活かし、依頼人の権利保護と法的サポートを提供しています。
コンサルティング業務と報酬
司法書士は、企業の経営コンサルティング業務も行います。
法律知識を活かして企業の法務部でのアドバイザーや、事業経営に関する相談役を務めることがあります。
このようなコンサルティング業務の報酬は、顧問契約に基づき月額20万円から50万円が一般的です。
内容や契約の形態によって報酬が異なる場合もあります。
簡易裁判所における訴額140万円以下の訴訟と報酬
認定司法書士は、簡易裁判所で訴額140万円以下の訴訟を担当することが可能です。
この業務に対する報酬は、訴額に応じて異なります。
訴額 | 着手金 | 成功報酬 |
---|---|---|
100万円以下の場合 | 8万円(+税) | 獲得利益の10%(+税) |
100万円以上140万円以下の場合 | 10万円(+税) | 2万5,000円(+税)+獲得利益の7.5%(+税) |
これらの業務は、司法書士にとって重要な収入源であり、それぞれの業務内容に応じた適切な報酬設定が行われています。
そもそも司法書士とはどんな仕事?
司法書士は、顧客からの依頼に基づき、法務局や裁判所への書類提出や登記手続き、供託業務などを行う法律専門家です。
この職業は、不動産や会社の登記など、日常的な法律事務を担当し、個人や企業の権利と財産を守る重要な役割を果たしています。
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給料・年収
司法書士の年収は、開業や勤務形態、地域や事務所の規模によって大きく異なります。
一般的に開業司法書士の年収は400~600万円程度で、特に成功している個人は年収が1,000万円を超えることもあります。
勤務司法書士の場合、年収は300万円から400万円が多いですが、事務所によって差があります。
司法書士になる方法・資格取得の難易度
司法書士になるには、国家試験である司法書士試験に合格する必要があります。
この試験は法律の専門知識を問うため非常に難しく、合格率はおよそ3.5%と非常に低いです。
準備としては、法学部や専門学校への進学、または司法書士事務所での実務経験が一般的です。
司法書士の将来性
司法書士の将来性は、技術進歩や市場環境の変化により挑戦が伴います。
インターネットでの情報提供が増え、一部の業務が自助努力で可能になったため、専門性を活かした新しいサービスの提供が求められています。
これにより、事務所のサービス内容の拡充や、顧客に対する付加価値の提供が必要になってきています。
弁護士との違い
司法書士と弁護士の主な違いは業務の範囲にあります。
司法書士は不動産登記、会社登記、供託など特定の法律事務に限られていますが、弁護士はすべての法律業務に対応可能です。
司法書士は登記業務に特化しており、その専門性を活かした業務を行いますが、弁護士はより広範な法的問題に対応し、訴訟代理なども担います。
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所属するか、独立開業するか
司法書士として働いて収入を得る方法には、「司法書士事務所に所属する」方法と、「独立開業する」方法の2通りあります。
事務所に所属する方法は、簡単にいえば一般サラリーマンと同様にオフィスに出勤して仕事をもらい、毎月決まった給料を受け取るという手段で収入を得ます。
安定した収入が得られますが、司法書士免許を取得して間もない時期は実績が少ない為、給料が上がりにくいです。
一方独立開業は、自分で事務所を立ち上げて業務をこなし、収入を得ます。
仕事は自分の自由に選ぶことが出来ますし、何より依頼者から支払われた報酬がそのまま自分のものなるという点はとても大きなメリットです。
ほとんどの方が、司法書士の資格を取得後、司法書士事務所へ所属し、仕事の流れや内容をつかみながら実績を得たうえで独立するというケースが多くなっています。
所属司法書士のメリット・デメリット
所属司法書士の平均年収はおおよそ200万円~400万円後半となっています。
司法書士事務所へ所属した場合、給料はサラリーマン同様固定給になりますので、安定した給料と、休日を確保できるのは所属しているメリットと言えます。
しかし一方で、給料制のため、どれだけ沢山仕事をこなしても時間外で仕事をしない限り月給が増えることはありません。
独立開業した場合のメリット・デメリット
司法書士として独立開業した場合の平均年種はおおよそ500万円となり、所属司法書士よりは高い給料が見込めます。
独立した場合、自分自身で仕事を取りに行き、こなさなければいけない為依頼によっては月の給料がほぼ無い。という可能性もあります。
安定しない給料と、自分が頑張らなければいけないというのは独立開業のデメリットかもしれませんが、頑張れば頑張るだけ収益に繋がり、努力次第では年収1,000万円も夢ではないと言うメリットもあります。
司法書士の中で高い年収を得ている方のほとんどが独立開業しています。
独立開業で高収入を得るにはどうしたらいい?
事務所所属の司法書士と、独立開業した司法書士の違いを比べると、独立開業した方が良い事ばかりのように感じます。
しかし実際はそうではなく、独立開業した司法書士には、事務所所属の司法書士にはない苦労する点が沢山あります。
高収入を得るには、それなりの努力が必要です。
実績を積み自己アピールをする
独立開業している司法書士は、待っているだけでは仕事は来ません。
自ら積極的に動いて仕事を見つけなければいつまで経っても収入はゼロのままです。
仕事を請け負うためには、仕事を任せられると判断してもらうための実績が必要になるため、積極的に自分を売り込まなければいけません。
司法書士の免許を取って、いきなり独立して実績を積むのは困難を極めます。
独立開業するつもりでも、一定期間は司法書士事務所に所属し、実績を積んだほうが良いでしょう。
雑務を外部委託する
独立開業すると、司法書士としての仕事だけではなく、事務処理をはじめとした雑務もこなさなければいけません。
しかし雑務に時間を取られると、その分司法書士としての仕事が出来なくなります。
ある程度安定した収入を確保出来ているのであれば、雑務は税理士などに外務委託しましょう。
外部委託すればその分仕事に集中できますし、税理士は事務処理のプロなのでミスもほとんど無くなります。
独立開業した際にはどのように自分が効率的に働ける環境を作れるかと言う試行錯誤も重要になってきます。
司法書士以外の仕事ができるようにする
司法書士は副業が認められている職業なので、司法書士以外の仕事ができるようになれば、その分請け負える仕事も増え、収入アップに繋がります。
実際に司法書士の資格をもっている人のなかで、行政書士の資格も取得し、兼業している人が居ます。
司法書士と行政書士は同じような業務をしているように思えますが、司法書士は法律に関する書類の作成が主な業務であるのに対し、行政書士は役所に提出する書類を作成することが主な業務です。
例えば飲食店などが開業する際の営業許可の申請や、建築会社が建物を建築する際の建築許可の新背に必要な書類の作成は司法書士ではなく、行政書士の仕事です。
また不動産の登記司法書士の主要業務ですが、不動産鑑定士や土地家屋検査しなどは司法書士の業務に直結する資格となっているので、取得しておけば業務の幅が広がるでしょう。
司法書士の年収や独立開業する際のポイントまとめ
司法書士は難しい国家資格試験を受け、合格することで初めて名乗れる職業です。
そのため、年収がとても高いようなイメージを持っている人が多いです。
司法書士全体で見ると、平均年収は約600万円となり、一般サラリーマンの平均年収である約440万円を大きく上回っています。
しかし割合を見ると、年収を押し上げているのは一部の高収入司法書士で半数以上が一般サラリーマンと同等かそれ以下の収入です。
事務所所属と独立開業の司法書士の年収を比較すると、独立開業した司法書士のほうが高いので、高収入を目指すのであれば独立開業する必要があります。
ただし独立開業して仕事をもらうには一定以上の実績が必要なので、実績を積むまでは司法書士事務所に所属するほうが無難といえるでしょう。