弁理士試験に合格した後には、弁理士として活動するための実務修習があります。
しかし、弁理士資格試験を受験する方の大半は社会人であるため、本業が忙しい方も多く、すぐに実務修習を受けない方もいらっしゃるようです。
この記事では弁理士の実務修習について、働きながら受講することは可能か、費用はいくらか、受けなくても良いのかなどを解説していきます。
興味のある方は是非最後までご覧ください。
弁理士の実務修習とは?
弁理士の資格試験に合格しても、すぐに弁理士として働ける訳ではありません。
弁理士を名乗るためには、実践的な知識や経験を身に着けるべく、実務修習に参加しなければなりません。
実務修習では、eラーニングと集合収集を受ける必要があります。
eラーニング
eラーニングは、いわゆるオンライン授業のことで、手元にあるテキストを見ながらネット配信されている講義を視聴して学習を進めていきます。
講義を受講した後に、効果測定が毎回行われ、8割以上の得点をすることができないと次に進むことができない仕組みとなっています。
eラーニングは、毎年12月~2月といった一定期間しか配信されないため、年中好きな時期に受講できるわけではありません。
特許申請などを行う際の書類作成法や出願手続きなど、弁理士として活動するために必要になる事項が出題範囲となっています。
集合修習
集合修習は、後述するコースによって異なりますが、最短4日間・最長9日間にわたって合計27時間の講義を受けます。
場所は、東京・大阪・名古屋の3箇所で、大体3月の下旬~4月の中旬に行われています。
集合修習は参加する際に事前課題の提出が求められており、事前課題のレベルが低いと再提出を要求されることもあるので注意しましょう。
合格、不合格のラインは?
実務修習の合格・不合格は試験ではなく、全ての単位を取得したかどうかで判断されます。
単位を落としてしまうパターンとしては、原則出席が必須である講義を無断欠席したり、再提出した事前課題のレベルが低かったりすることが挙げられます。
さらに、集合修習に関しては遅刻も許されていないため、時間には余裕をもって行動して単位を落とさないように気を付けましょう。
弁理士の実務修習を受ける場合の費用は?
実務修習には受講料がかかり、税込みで118,000円です。
内訳はe-ラーニングシステム経費や通信費、講師の人件費、コンテンツ作成費などです。
さらに、集合修習に必要な交通費や宿泊は受講料に含まれていないので、自分で支払う必要があります。
住んでいる地域や泊まるホテルのグレードなどに寄りますが、受講にはトータルで20万円近くかかると考えてください。
しかし、所属している企業や弁理士事務所が全額負担してくれる場合もあるため、まずは企業や事務所の担当者に相談してみましょう。
社会人でも働きながら実務修習に合格することは可能?
ここからは、社会人の方の目線で、働きながら実務修習を受け合格することができるのかを解説していきます。
一概に社会人と言っても、仕事内容や勤務形態の違いなどで確保できる時間なども変わってくるため、あくまでも一例としてご覧ください。
実務修習を受講している方のほとんどは社会人である
「社会人として働きながら実務修習を終えられるか?」という疑問については、「終えられる」と回答できます。
なぜなら、実務修習を受けている方のほとんどが働きながら受講しているからです。
プライベートの時間をかなり犠牲にする覚悟は必要ですが、周りの理解が得られれば難しいことではないでしょう。
しかし、注意するべきことや大変なことも多くあります。
厳しいのは集合修習の日程調整
実務修習にはeラーニングと集合修習がありますが、eラーニングは自分の好きなタイミングで受講できますし、効果測定も講義をしっかり聞いていれば問題なく合格できます。
「私でも修習を終えられるかな?」と不安に思われるかもしれませんが、実務修習を受講する方は社会保険労務士試験に突破しているので、さほど苦労は無いと考えられます。
しかし、集合修習は実際に会場に行く必要があり、このコース(日程)は抽選で決まります。
コースは以下のように分けられています。
- 土曜昼コース
- 金曜昼コース
- 平日連続5日間昼コース(集中コース)
- 木金夜間コース
金曜昼コースや集中コースに当たってしまった場合、4月という節目の時期に平日会社を休んで集合修習に行かなくてはなりません。
日程を変更することはできるようですが、勤めている会社から書類を貰う必要があり、会社に内緒で受講している方には厳しいですね。
事前課題が非常に難しい
集合修習に合わせて済ませておく必要がある事前課題は、ハードルが非常に高いようです。
特に弁理士事務所で実務経験を積んでいる方以外は、企業の知財部に所属している方も含めて再提出が当たり前という厳しさで、講師によって合格基準も違うため運もかなり絡んできます。
さらに、事前課題は再々提出までが限界で、それすら落ちてしまうとその年の実務修習は不合格となってしまいます。
実務経験を持った弁理士にアドバイスを貰ったり、同じ講師の元で集合修習を受けている人の中で合格した人にポイントを聞いたりすることが攻略方法になります。
社会人におすすめのスケジュール
社会人がどういったスケジュールを組めば、実務修習を乗り越えられるのかを紹介します。
おすすめのスケジュールは以下のようになります。
- 実務修習に申し込む
- 実務修習開始までに事前課題について対策を考えながら、家族には家事、同僚には仕事の分担など協力を頼めるように説明する
- eラーニングと事前課題にすぐに着手し、できるだけ早めに終える
- 集合修習開始、事前課題を提出する
- 事前課題の再提出が必要であれば、改めて取り組む
- 事前課題を再提出し、集合修習を終える
社会人のスケジュール管理の難しいところは、実務修習中は集合修習と事前課題の作成・再提出にかかりっ切りになってしまうので、家事や本業に大きく時間を割けない点です。
学生や無職の人であればスケジュールに融通が利くものの、社会人ではそう簡単にはいきませんよね。
実際に集合修習が始まってから周囲の人に協力を得ようと相談しても都合が合わないかもしれないので、なるべく早めに理解を求めておくようにしましょう。
また、事前課題の再提出・再々提出が必要になっても時間と体力にゆとりを持てるように、eラーニングは早めにすべて見終えて、最初に事前課題に着手するタイミングもできる限り早い方が良いですね。
弁理士の実務修習を受けないことは可能なのか?
実務修習は弁理士として働くためには必要ですが、「弁理士試験に合格したら全員が必ず修習を受けなければならない」ということではありません。
弁理士試験に合格しても、実務修習を受けないという方も多くいらっしゃいます。
実務修習を後回しにしたいという方へ
実務修習は年末~翌年の年度初めにかけて行われるので、「今年はどうしても都合がつかない」という方もいるかもしれません。
弁理士の実務修習は、資格試験合格と同年度に行わなければならないといった規則は無く、弁理士法上では試験合格の何年後でも受けられるようです。
とはいえ、1年も経てばせっかく学習した内容を忘れて実務修習で非常に苦労するため、ほとんどの合格者は資格合格年の実務修習に参加しています。
できるだけ合格年に実務修習が受けられるように、スケジュールが調整できないか検討しておきましょう。
弁理士にならないのであれば実務修習は必要ない
弁理士として働く意思がなければ、実務修習は受ける必要がありません。
また、企業の知財部などで特許申請に関する知識が必要になるという方も、弁理士を名乗って仕事をするわけではないので、無理して実務修習を受講しなくても構いません。
実務修習は非常に時間と労力がかかるうえに、かなり高額な受講費用が必要になるので、すぐに受講を決められない場合もあります。
ですから、今後弁理士として活動したいと考える日が来た際に、改めて実務修習を受講すれば良いでしょう。
実務修習で不合格になるとどうなる?
実務修習に不合格になった場合は、ペナルティや罰金などは無く、次の年に申し込んで再び実務修習の合格を目指します。
しかし、弁理士事務所などへの就職・転職が決まっていた方は、不合格になったら必ず事務所に相談をしましょう。
弁理士事務所は採用条件として、実務修習の修行を定めていることが一般的だからです。
また、不合格になって弁理士事務所に入れなかったとしても、企業の知財部などに就職・転職して実務経験を先に積んでおくことで、次回の実務修習で挽回することが期待できます。
eラーニングや事前課題は、実務経験の有無が理解度や合格のしやすさに影響しますので、実務修習を積んでおいて損することはないでしょう。
実務修習で不合格となっても、別の進路を考えたり、リトライを検討したりすれば良いだけですから、あまり落ち込まないようにしてください。
弁理士の実務修習の内容と費用まとめ
現在、弁理士の実務修習を受けている方のほとんど社会人であることから、働きながら実務修習を受けることは可能だと考えられます。
しかし、スケジュール管理が非常に厳しく、eラーニングをこなしながら事前課題を作成しなければなりません。
また、集合修習は日程が抽選によって決まるため、平日のコースに当選した場合は会社の上司・同僚や家族からの理解が得られるように、あらかじめ詳細な説明をしておく必要があります。
もし実務修習を不合格になってしまった場合、その翌年の実務修習を受けることはできますが、転職先には正直に話すようにしましょう。
社会人から弁理士を目指すハードルは決して低くありませんが、体調管理に気を付けて弁理士を目指してください。